企画展であろうと、常設展であろうと、またアートの飾られている場所ならば プロアマ問わず、見に行きます。様々な形、色、メッセージ、多くの人に 見られることを待っている作品たち。当コーナーでは、そんなシーンを取り上げて 「アートディーラーの立場」からコメントいたします。
VOL.4は、工場の跡地で開催された展示会を取り上げます。また「まちづくり」の視点からインタビューも載録しました。今後のこうしたイベントの可能性も示唆した展示会であったかもしれません。


Vol.4 「東京ポケット」
〜停止した工場で、アートが動き出す
そして新たな可能性へ
平成15年6月末 「元段ボール工場」
(東京都・板橋区)
(埼京線浮間舟渡駅近く)


東京都は板橋区、JR埼京線浮間舟渡駅近くに廃業してしまった段ボール工場がありました。そこを使ったアートイベントを今回はピックアップ致します。廃墟施設を使用した展示会ならば、割と普通に行われていることでしょう。しかし、今回は地元の街づくりに関わるNPOが協力しており、従来の展示会とは異なる視点が生まれています。
主催は「東京ポケット実行委員会」。東京ポケットとは、「いわば隙間、美術館やギャラリーの対極に位置する、普段は意識されない空間」である、と代表者であるアートディレクターの栗林賢さんは語ります。「地元の人に体験として持ち返ってもらいたいような空間を作りたい」のが狙いです。会場は道路に面した、目立たないところにあります。通りすがりの人がふらりと寄ってみる、それもまた狙いであります。


作品は、ホームページなどで呼びかけて賛同してくれた各種アーティストの共同制作による一種のインスタレーション。絵とか彫刻と違って、持ち帰りのきかない、その場で展示して見てもらうことで成り立つ作品です。段ボール工場として使用されていた場所は、機械や消火器、ヘルメット、その他ごちゃごちゃした工場備品がそのまま残されていまして、それも作品のひとつ。室内を上下に切り取るように白い布を横一面に張り巡らし、中を懐中電灯を持って探検してもらおうという体験的作品。空間全体が作品ですので、夜になると懐中電灯の光も作品になります。お客さんにはスタッフが案内人としてつきます。

期間は一週間限定。会場使用料はもちろん無料。ちなみに電気代など実費は展示者持ちとなっています。今後同様のことをやろうとしている方のために助言すれば、費用の分担、撤去時には現状維持なのか汚して返していいのか、喫煙場所はどこか、などこと細かに施設の所有者と話し合っておくことが不可欠です。あのグループは良かった、と言ってもらうことは重要です。

参加しているアーティストたちは得意分野も様々です。演劇や写真を専門としている人もいます。それぞれが表現の方向性を模索している過程で、この東京ポケットに出会ったというわけです。

作品としての出来栄えを云々することは避けますが、重量感のある油っぽい機械と、やけに清潔感のある白布の対比、それと近隣の子供達(主に男子)が集まっていたことが印象的でした。子供達は、今や失われつつある「探検の場」をここに見出していたのではないかと思われます。その意味でも懐中電灯はいい小物として機能を果たしていると言えます。地域の人に体験として持ち帰ってもらう、という狙いもある程度成功したのではないでしょうか。ただ、見た人の感想などを記録として残しておいた方がいいと思います。

さて、東京ポケットとしては、これが第一回目の企画で、次回は、東京都の村での展示会を企画しているとのことです。多種多芸な才人をコーディネートするだけでも難しい仕事であると思われますが、代表の栗林さんは、実は現役の大学生。今後各人の個性を集めてどういった展示ができあがるか、ディレクターの手腕が問われるところであると言えましょう。見る(体験する)人は勝手な感想を持ちますが、「よく分かんなかった」で終わらせては勿体無いと思います。次回もより一層の作品を期待したいと思います。

ところで、今回この場所で展示会が可能になったのは、地域の協力があったからに他なりません。直接協力してくれたのが、NPO法人「板橋まちづくりセンター」。市民はもちろん建築士、都市計画コンサルタント、環境コンサルタント、技術士などで構成されており、諸々の切り口で住み良い街づくりを考え、市民、地元企業、行政に助言していく法人組織です。ワークショップ、講演会、地元大学での講座など様々に取り組んでいます。代表者のひとりである、本橋勝さんにあれこれお聞きしました。

-今回ここでアートイベントが行われるようになったきっかけを教えて下さい。
私たちのまちづくりセンターには、色々なメンバーがおります。メンバーのつながりの中でこの工場が見つかったのです。たまたま段ボール工場が閉鎖、次の借り手が入居するまでにブランクがありました。その間何か有意義なことに使えないかという案が持ち上がり、これもメンバーを介して、場所を探していた東京ポケットに繋がったものです。

-まちづくりと「アート」とのつながりについてどうお考えでしょうか。
最近では雑誌を見ても「アートによるまちづくり」といった記事をよく見かけます。本来アートが生活の場に必要かどうかといった問題もあると思います。例えば、日本の地域・社会は少なからず閉塞的な状況にあるとすると、アートにはもしかするとそうした閉塞状況を打破する可能性があり、作品を通じてインタラクティブ(双方向)の関係を喚起することができるのではないか、そうすればアートは有効に働きます。それがコミュニティの豊かさになる、「人が住む場所」に経済的側面だけで測れない豊かさが生まれてくるといったことが考えられます。

-今後アートとかかわり合う「まちづくり」の具体的課題は何でしょうか。
ひとつには自治体を巻き込んだ活動が必要と考えられます。例えば、官有地、公共用地をアーティストに提供させるとか。それを進めて、場所をNPO法人のような第三セクターで管理するとか、仕組み作りがあります。市民もボランティアのような形で関わりが持てる。地域文化的視点の政策を立て、予算をつけるのが肝心だと思います。展示会のようなイベントであれば、出展するアーティストに対して(額は少なくとも)何らかの形で支払いが行われる。本当にいいものであれば市民が買い求めますし、その第三セクターなり、自治体が買い上げるシステムも可能かもしれません。地元アーティストの発掘は地域文化育成にもなります。その他財源としては、地元企業のスポンサーシップも考えられます。

-具体的に板橋まちづくりセンターとしてのアートの展開は。
今回の東京ポケットで知り合ったアーティストなどと組んで、例えば板橋にある植物園を使った演劇のようなものを考えています。今回は子供達の集まり場所という副産物が生まれましたが、これもひとつのヒントにはなりました。次回は企画の段階から色々な得意分野を持った人たちともコラボレーションして、より一層面白いものをやってみたいですね。

-どうもありがとうございました。
NPO 板橋まちづくりセンター事務局は、デザインパートナーズ本橋設計室内に置かれています。 電話:03-5997-9288  
また、同設計室のホームページは http://www.dp-jp.com となっています。


さて、例えば画家にお金が渡るルートは実はいくつもあります。(その当該人になるのがすごく難しいというわけですが)今や日本の国民的画家と言っても過言ではない、千住博氏の作品は外務省がたくさん買い上げています。それらは、世界に点在する日本の在外公館に飾ってあります。他にも美術館が買う場合もあるし、コンテストで買い上げる機関もあります。芸大だって買っています。一般的なものはコレクターが好きな作品を買うことでしょう。
それとは別の、お金の流れの支流として、地域のイベントがそうなる可能性もあります。問題は自治体とか第三セクターが予算をつけてくれるかどうか、あるいは地元企業のスポンサーシップの有無だと思われますが、そのためにはアーティストの側の制作・発表活動だけでは限界があるでしょう。
今回のように地域のことをよく知ったNPO法人のような組織とタイアップすることが必要になってくるでしょう。そう考えると、今回のタイアップイベントも1回限りで終わることなく、次回につなげて頂きたいと思います。アーティストにとって、お金の流れにとらわれることは本意ではないと思う向きもあるかもしれませんが、それがないとやがては行き詰まると思うのですが、いかがでしょうか。今回の展示会は、色々と将来的な展望を考える上で意義のあるイベントであったと思われます。

東京ポケット参加アーティスト
栗林 賢(代表)・KURI・近藤ヒデノリ・ダイキ・三上修志郎・UFO工房・和田 誠・山崎あゆか (敬称略)




>>Vol.1 デジタルとアートのコラボレーション「Di:CaFe」

>>Vol..2 第2回彩心展(彩心会グループ展)


>>Vol.3 展覧会「日頃の考え」

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