企画展であろうと、常設展であろうと、またアートの飾られている場所ならば プロアマ問わず、見に行きます。様々な形、色、メッセージ、多くの人に 見られることを待っている作品たち。当コーナーでは、そんなシーンを取り上げて 「アートディーラーの立場」からコメントいたします。VOL.3は、地道に自分達の作品の展覧会を重ねていく現代の若いアーティスト達の姿から、 ひとつのシーンをピックアップして、違った角度からコメントしてみます。


Vol.3 「展覧会 日頃の考え」 
平成13年春 「ギャラリー下北沢」(東京)


 この展覧会は、美術を学ぶ若い4名がそれぞれの作品を発表する目的で開催された。 アートの初心者向けに解説すると、こうした展覧会はおもに貸ギャラリーにて行われる。お金を払って、一週間くらい借りて作品を展示する。これが、長い間続いているアーティストの発表の手段のひとつである。ともかく、自分の作品を発表する=人に見てもらう、ことが 制作者の願いであることをまずご理解頂きたい。

 展覧会のタイトルは大げさではなく、「日頃の考え」という肩に力の入っていない自然体。 「具体的なメッセージよりも、日常の生活の中のささやかな価値を見出してもらおう」というメンバーの意図による。  

 4人それぞれに個性的な作品は、味があってまずまず面白かった。絵画も写真もオブジェも静かな力が漲っている。無理に背伸びせず、今の持てるものを素直に表現していることが分る。東京だけでなく、地方での展覧会も開催していると聞いた。 そうした地道な活動を継続することが、制作へのエネルギーを支えているとも言えるだろう。 中心メンバーである天田・村上両氏の共同制作による本の販売も行われていたが、これはいかに 完成度の高いものにしていけるかが課題。今のスタイルを踏み台にしてステップアップしていく 段階にあると言える。

 

 今回は、企画的な側面から課題を見出すちょうどいいモデルだったとも言える。そこで一般的な 展覧会の実践セミナーとして聞いて頂きたい。まず、企画自体の「日頃の考え」という面白さをどう演出するかが問題だろう。案内のDMは文章でそれが表現できるが、実際の現場となるとまた別。 やはり、この展覧会の意図なり考えを、多少なりともパネルで文章にして掲示する必要があると思う。 見に来る人は、偶然通りかかって看板を見て入る人もいるだろうし、別に美術が好きな人とは限らない。 「分る人には分かってもらおう」と思うよりも、「分らない人に少しでも分ってもらおう」という努力は要る。 作者の紹介とタイトルのポップはきちんと作品の下とか横に「礼儀正しく」添付すべきで、写真は紙焼きのまま無造作に貼るのも分らないではないが、いくつかは額に収める方がいい。芳名とアンケート用紙は分りやすく。予算の制約があるのは承知しているが、そこを突破するのが「企画力」なのだ。

 例えば、どうせなら「元を取る」つもりで、作品に価格をつけて、持ち帰ってもらう試みもあっていい気がする。 そのためには、いくつかは「最善の額」に入れる必要がある。そうすると余計なコストがまたかかる。が、ベストの状態のものを展示する姿勢が重要なのだ。展示のしかたによって(あるいは額装にもよって)、 いい作品にもなり駄作にもなってしまう。

 以上のことがもし備わっていたならば、絵画のストーリー性が増して、見る人の絵の前での滞在時間はもっと長くなったであろう。写真はもっと活き活きとして、第一印象もよく見えたに違いない。 ひとりひとりの作品がバラバラなのは致し方ないとしても、ギャラリーの内部全体の完成度がもっと増して、 緊密感のある展示会になったであろう。紙面の関係上、この程度に止めておくが、あとに続くアーティストは参考にして頂きたい。

 最後に、これを読んでいるあなたがアートを「見る側」の人で、割と初心者だったら、 高い入場料を払って高名な展覧会に行くのもいいが、こうした若いアーティストの展覧会は無料で随所で行われていることを是非知って頂きたい。直接本人たちと話をする機会もあるだろう。 そうすると、色々話を聞くことができて、とかく「分らない、難解」と思われている今日のアートを、いささかなりとも知ることができるのである。これは意外と得がたい機会であると思うのあるが、いかがであろう。

>>Vol.1 デジタルとアートのコラボレーション「Di:CaFe」
>>Vol.2 第2回彩心展(彩心会グループ展)
>>>Vol.4 東京ポケット(停止した工場でアートが・・・)



出展者:天田 輔  村上 徹  磯貝早希  武田典子
参考ホームページ:amada-murakami site





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